「常に疑問を持ち、追究し続ける」―臨床から研究へ、患者さんとともに歩む探究の道―
医薬保健学総合研究科/附属病院呼吸器内科
特任准教授 渡辺 知志
臨床現場での経験が研究の原点
「当時は有効な治療法がなく、ただ見守るしかなかった…」。学生時代、病院実習で直面した肺線維症に苦しむ患者さんとの出会いが、渡辺知志特任准教授を研究者の道へと導いた。渡辺先生は現在、金沢大学附属病院呼吸器内科の臨床医として勤めながら、医薬保健学総合研究科の特任准教授として、おもに肺の疾患に関する研究に取り組んでいる。学生時代に、急激に悪化する病状に対し、ただ見守るしかなかったという無力感が、病気の成り立ちを深く理解し、新規治療法や治療薬を研究開発したいという強い動機となった。「なぜこの病気は起こるのか」「どうすれば治せるのか」。その問いが、臨床医として医療現場の最前線に立つ渡辺先生に、研究者としての志を育んでいった。
間質性肺炎 -マクロファージと肺線維化の関係を探る-
現在、渡辺先生が研究対象としているのは「間質性肺炎」。この疾患は、肺の構造を支える組織である「間質」に、何らかの原因で炎症や線維化(組織が硬くなる現象)が生じ、進行すると呼吸不全に至る難治性疾患である。主な症状は咳や息切れで、肺炎や喘息と類似しているが、認知度は低く、指定難病に分類されている。病態の全容は未だ不明で、治療法も確立されていない。一方で、発症に関与する可能性のある要因が、少しずつに明らかになりつつある。近年では、国际足球_虎扑体育-中国体彩网官网推荐感染症の流行を契機に注目が高まり、国内外の研究者との連携も進んできていると渡辺先生は話す。
渡辺先生が特に注目しているのが、肺に存在する免疫細胞「マクロファージ」である。マクロファージは、体内に侵入した異物(細菌やウイルスなど)を除去し、炎症反応を調整する役割を担っており、さまざまな感染や炎症を防ぐ重要な役割を持つ細胞である。このマクロファージの中に、肺の線維化を促進するタイプの細胞が存在することが、最近の研究で明らかになってきた。渡辺先生は、マクロファージの働きを理解することで、間質性肺炎の病態解明と新規治療法の開発を目指して、研究を進めている。
常に疑問を持ち続け、臨床に還元する研究を目指す
「私の志は、常に疑問を持って追究し続けること」と渡辺先生は語る。日々の診療のなかで、患者さんと向き合いながら、そこに潜む課題やヒントを見出し、病態の解明に挑む研究へとつなげている。「なぜこの病気が起こるのか」、「背景には何があるのか」。こうした探究心こそが、研究の原動力となる。その姿勢は、患者さんとの日々の接点から生まれる実践的な気づきに支えられている。「患者さんを常に目の前にしていることが、何よりのモチベーションとなる」と話すように、臨床の現場こそが研究の出発点であり、目的地でもある。「患者さんから学び、課題やヒントを得て研究に生かし、そしてその成果を再び臨床に還元する―その循環を大切にしている」。この循環こそが、医師としての在り方であり研究者としての渡辺先生の信念である。
現在の医療では、間質性肺炎に対する治療は、病気の進行を遅らせることが中心となっている。しかし渡辺先生は、その枠組みを超えた未来を見据えている。「線維化を治し、呼吸機能を回復させること」が、渡辺先生の目標である。患者さんが希望を持てる未来を実現するために、渡辺先生の挑戦は続く。
(サイエンスライター?見寺 祐子)